廃棄物の処理問題は世界共通の大きな課題ですが、なかでも注目を集めているのが「電気電子機器廃棄物」(以下:電子廃棄物)です。
電子廃棄物は、近年では書類保管 がデジタルへと移行しつつあることや、スマートフォンやパソコンの普及に伴い増え続けるといわれています。処理方法を誤ると情報漏洩や環境破壊をはじめとするリスクも多くあり、場合によっては企業経営にも悪影響を及ぼす厄介な存在です。
そこで今回は電子廃棄物とは何かを解説すると共に、問題点や解決策について解説します。
電子廃棄物とは
電子廃棄物とは、乾電池やバッテリー、プラグを搭載した製品など、電子機器の廃棄物を指します。英語では「E-waste」、「WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)」などと呼ばれます。
現代社会では、パソコンやスマートフォンから、ゲーム機、照明器具、家電製品に至るまで膨大な数の製品がバッテリーの力を動力として動いています。これらが不要となったものがすべて「電子廃棄物」に含まれます。
電子廃棄物の分類
「国連グローバル電子廃棄物統計パートナーシップ」では、電子廃棄物を大きく6つのカテゴリーに分類しており、それぞれのカテゴリーには以下のような製品が含まれます。
- 冷却および冷凍装置:冷蔵庫・冷凍庫・エアコンなど
- 画面・モニタ:テレビ・ノートパソコン・タブレットなど
- 照明:蛍光灯・LEDなど
- 大型機器:洗濯機・衣類乾燥機・食器洗い機・太陽光発電パネルなど
- 小型機器:掃除機・電子レンジ・トースター・小型医療機器など
- 小規模なITおよび通信機器:携帯電話・ルーター・パソコン・プリンタなど
電子廃棄物が増加する背景
2019年に世界中で出された電子廃棄物の量は、およそ5,360万トン近くと推定されています。この数字は直近5年間で電子廃棄物の量が約21%も増加したことを示しており、さらに2030年には7,470万トンにまで増えるという予測が出されています。
日本における電子廃棄物の現状ですが、2019年にはおよそ256.9万トンの電子廃棄物が発生したと推定され、1人あたり年間平均20.4キロの電子廃棄物を出していることになるという数字が発表されています。(数字はいずれも国連グローバル電子廃棄物統計パートナーシップ「The Global E-waste Monitor 2020」より)。
電子廃棄物が年々増加している背景には、主に2つの理由があるとされています。ひとつには電子機器製品が年々増加している上に、昔の製品と比較すると構造が複雑になっているために製品の寿命が短いこと、そしてもうひとつは、次々に性能がアップした新製品が発売させるため、消費者の買い替え需要が高いことなどが挙げられています。
電子廃棄物は実は「宝の山」?
環境や人体の健康に負荷を与える「悪役」として扱われることが多い電子廃棄物ですが、その一方で新たなる資源として注目されている一面もあります。その理由は電子廃棄物の中にレアメタルや金などの有用資源が含まれているためで、別名「都市鉱山」とも称されています。
東京オリンピック・パラリンピックでは「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」とスローガンが掲げられ、大会で必要な約5000個の金・銀・銅メダルを、電子廃棄物からリサイクルされた金属だけで造るというプロジェクトが展開されたことは記憶に新しいところです。
電子廃棄物の処理に関する問題点と解決策
電子廃棄物の処理に関して、さまざまな問題点が挙げられます。ここでは代表的な2つと、その解決策をご紹介します。
環境や健康へ影響を及ぼす可能性がある
電子廃棄物には、鉛など健康被害を与える有害物質も数多く含まれています。そのため適正に処理をしないと、地球温暖化に悪影響があるとされるフロンガスや、人体に悪影響を及ぼすダイオキシンなどを放出する危険性があります。国連グローバル電子廃棄物統計パートナーシップの調査結果によると、2019 年に電子廃棄物から大気中に放出された温室効果ガスは二酸化炭素換算で9800 万トンと推計されており、これは全世界の排出量の約 0.3%にあたります。
世界規模で深刻さを増す電子廃棄物問題の解決に向けては、現在2つのポイントがあると指摘されています。
- そもそも電子廃棄物の発生を減らすこと。
- 正しくリサイクルされる電子廃棄物の割合を高めていくこと。
電子廃棄物の量を減らすためには、先進国、発展途上国の垣根を越えた国際間の協力体制の構築、各国の規制強化などが必要とされています。しかし行政施策だけではなく、一人ひとりの消費者にも、高性能の新製品が出たからとまだまだ使える手持ちのスマートフォンやパソコンなどをすぐに新製品に買い替えないといった姿勢が求められています。
一方、リサイクルという視点では、2019年時点での全世界における電子廃棄物の排出量およそ5,360万トンのうち、リサイクルに回せる正規の処分ルートで改修されたのはおよそ17.5%にとどまっており、まだまだリサイクル率が低いのが現状です(国連グローバル電子廃棄物統計パートナーシップ「The Global E-waste Monitor 2020」より)。
リサイクル率の向上を目指し、日本では2001年に「家電リサイクル法」が、そして2013年に「小型家電リサイクル法」が施行されています。「家電リサイクル法」は、エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機の4品目を「特定家庭用機器」に指定し、小売業者には「排出者(消費者)からの引取りと製造業者等への引渡し」を、製造業者等には「引取りとリサイクル(再商品化等)」といった役割を課すことでリサイクル推進を義務づけた法律です。「小型家電リサイクル法」は、携帯電話・PC・電動ミシン・電気ストーブ・ヘアドライヤーといった製品もリサイクルの対象として含まれています。この法律により、消費者には分別排出、市町村には消費者からの回収と再資源化事業者への引渡し、そして再資源化事業者には引き取った小型家電を適正に再資源化することが課せられています。
情報漏洩のリスクがある
電子廃棄物を処分する際、情報漏洩のリスクが発生しやすくなる点にも注意が必要です。漏れた情報を利用した第三者により、さらなる情報漏洩が起きる可能性もあります。
機器内部はデータが保存されています。以下のようなケースでは第三者が機密情報へ不正にアクセスしやすくなり、情報漏洩の危険性が高まります。
- フラッシュメモリやハードディスクなどの記憶媒体に保存されたデータが削除されていない場合や、削除されていてもデータの復元が可能である場合。
- パスワード・クレジットカード番号・個人情報などの重要な機密情報が保存されたままである場合や、削除されていてもデータの復元が可能である場合。
機密情報を保存した機器を廃棄する場合は、初期化したり、削除ソフトを使用してデータを削除したりするだけでなく、重要な情報を含む記憶媒体となる部品を物理的に破壊することが望ましいです。
また普段から適正に情報を管理することで、廃棄の際の情報漏洩リスクを下げることも可能となります。記録媒体を含むデバイスを廃棄する際、「どこにどんな情報があるか」を把握していれば、それぞれの適切な処分方法を決定しやすくなるからです。
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まとめ
電子廃棄物問題は国際的な大きなテーマではありますが、問題解決のためには各企業や消費者1人1人の行動も求められています。
また機密文書をはじめとする重要なデータを管理する上で、クラウドサービスや専門サービスの利用も視野に入れてもよいでしょう。情報を適切に管理することができれば、例えその文書が不要になったとしても、適切な廃棄を行いやすくなるはずです。